2011年5月7日土曜日

真実の愛


ある忙しい朝の8時半ごろのことだった。80代半ばの紳士が親指の抜糸にやってきた。
紳士は、「9時に約束があって、急いでいるのですが」と言った。


私は、彼の血圧や心拍数をはかり、「すわってお待ちください」とは言ったものの、あと1時間は誰にも診てもらえないと分かっていた。だが、彼が時計を気にしているのを見て、他の患者で忙しいわけでもないので、ケガを診察することにした。


見てみると傷はすっかり良くなっていたので、他の医者に言って、抜糸とその後の処置に必要な器具をそろえた。傷の手当をしているあいだ、「そんなにお急ぎなのは、今朝ほかにも医者のご予約がおありなんですか?」とたずねた。紳士は、「そうじゃないのですが、養護施設で妻と朝ごはんを食べる約束をしているのです。」とこたえた。


「奥さんはお元気ですか?」
「妻はアルツハイマー病なのです。もうかなりの間そこに入院しています。」
「…では、もしあなたが少しでも遅れて行ったら、奥さんは怒るのですか?」
「…妻はもう私が誰だか分からないのです。もう5年もそんな状態です。」


私は驚いて紳士に、「それでもあなたはいつも遅れずに、時間通りに会いにいくのですか?もう奥さんにはあなたが誰か分からないのに?」とたずねた。


紳士は、私の腕を軽くたたいて、ほほえみながら言った。
「妻には私が誰だかわからなくても、私は妻がどういう人間か知っていますから。」


彼が立ち去るまで、私は涙を必死でこらえた。とり肌が立って、「これこそ人生で求める愛の形だ!」と思った。


真実の愛とは肉体的なことでもロマンチックなことでもない。真実の愛とは、過去も現在も未来もそのままを受けいれることだ。たとえ、望んでいなかった未来でも。


人生においては、こういった小さな愛のつみかさねこそ、本当に重要なのだ。




オリジナルへのリンク↓
http://peacefrompieces.blogspot.com/2011/02/true-love.html

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